①「成果を上げる人材とは」

1.「成果を上げる人材とは」

 

 

受注競争の激化や現場を取り巻く環境の変化を受け、現場代理人の役割が大きく変わりつつある。その能力や資質が、建設会社の受注や生き残りをも左右するようになってきた。一方、現場代理人の育成に悩む企業は少なくない。ここでは、これからの現場代理人に欠かせない能力や資質を明らかにしたうえで、それらを身に付ける方法をお伝えする。

 

 

 建設会社が工事を受注すると、現場代理人を選任する。現場代理人とはその名の通り、社長の代理である。発注者からすれば、すべての工事において経営者に責任を持って対応してもらいたいものだ。しかし、経営者の体は一つしかなく、すべての工事を担当することは物理的に不可能である。そこで経営者が現場代理人を選任し、工事を経営者の代理として責任を持って完成させるのだ。

 

 現場代理人の主な仕事は、施工管理である。多くの協力会社の作業員や職人を統率し、ムダなく作業ができるように指揮・監督する。あたかも、オーケストラを操る指揮者のようなものだ。もしくは、プロ野球の監督とも言える。

 

 プロ野球の監督は、その多くが元名プレーヤーであり、自身のプレーヤー経験を基に選手を指導する。しかし、現場代理人の多くは、型枠を組むことはできないし、鉄筋も組めない。左官工事も防水工事もすることはできない。にもかかわらず、それらの作業に携わる人たちに指示、命令し、指揮・監督をしなければならない。

 

 それゆえ、現場代理人として成果を上げるためには、現場代理人に特有の資質や能力が必要だ。それがなければ、多くの作業員や職人を指揮・監督することができず、言うことを聞いてもらえないので、結果として良いものができない。

 

成果を上げる現場代理人にはどんな資質が必要なのかについて考えてみよう。

 

 

1.成果とは何か

 

 まずは、現場代理人が生み出すべき成果を書き出してみよう。

 

(1)物の品質が良い

 顧客が求めるもの(顧客要求事項)を法律や規格、そして自社のこだわりに沿ってつくることができる。

 

(2)顧客満足度が高い

 顧客の満足度を高め、継続受注や新たな顧客の紹介につなげることができる。

 

(3)適正利益を出す

 工事を実施することで、会社に適正な利益を計上することができる。

 

(4)協力会社に利益を提供できる

 自社だけでなく、協力会社も利益を出し、共存共栄の精神で仕事をすることができる。

 

(5)工程が短い

 可能な限り短い工期で施工することで、顧客や関係者の満足につなげることができる。

 

(6)事故が起きない

 安全や衛生に配慮した施工を実施し、無事故、無災害で工事を行うことができる。

 

(7)自然環境を保全する

 自然環境を損なわずに、地球にやさしい施工をすることができる。

 

(8)近隣の人たちと調和している

 近隣や関係者の人たちと調和を保って、関係者の満足度の高い施工をすることができる。

 

(9)働きやすい職場で従業員の満足度が高い

 工事現場の人たちが働きやすく、物理的、人間工学的、心理的に好ましい職場(作業)環境をつくることができる。

 

 では、このような成果を出す現場代理人には、どのような資質が備わっているのだろうか。以下の演習を通して解説しよう。

 

【演習】

 以下の8人の登場人物は、現場代理人に必要な資質の一部が欠けている。どのような資質が欠けているのか、考えてみよう。

 

(1)Aさんは、部下や作業員に対する面倒見がよく、人望が厚い。ただ、コンクリートの強度や配合、土の密度や最適含水比について、発注者から問い合わせがあると答えられなくなるし、実際に技術的なミスが多い。さらに、原価管理がずさんで利益を出すことができない。

 

(2)Bさんは、現場における仕事はきちんとこなす。しかし、発注者との設計変更の協議や近隣との協議が不得手でよく問題を起こす。現場の作業員との関係も希薄で、人とのコミュニケーションに課題がある。

 

(3)Cさんは、一人で仕事をする範囲では問題がないが、組織的に仕事をすることが苦手である。協力会社や部下に対して業務の指示をしたり、その進ちょくを管理したりすることができない。しかも同じミスを繰り返し、改善することができない。

 

(4)Dさんは勉強熱心で、資格も若くして取得した。しかし、経験が浅く、これまで施工した工種に偏りがあるので、新しい工種の工事を担当してもらうとミスが多い。

 

(5)Eさんは、Dさんと同じく勉強熱心で資格も有している。しかし、段取りが悪く、先を読んで将来起こるであろうリスクを予知して事前に手を打つことをしないために、いつもバタバタしてしまう。

 

(6)Fさんは、工事を遂行するのに必要なことはよく理解している。しかし、現場代理人としての判断を求められたときに、人を頼ったり任せたりして、自分で物事を決定することができない。

 

(7)Gさんは、一通りの仕事はでき、そつなくこなすタイプだ。しかし、いざというときに徹夜してでもやりぬくということはしない。あきらめが早く、利益が出ないことを営業のせいにして自分の責任逃れのような発言をする。

 

(8)Hさんは能力が高く、熱意も申し分ないのだが、人に対する思いやりに欠け、約束を守らず、ずる賢いところがあるので人望がない。そのため、いざというときにHさんを応援しようという人はいない。

 

 

2.「雑識」を体系化してまずは「知識」に

 
(1)技術力
 Aさんは建設現場において仕事をするための基本的な技術力が不足している。 表1-1に示すように品質、原価、工程、安全、環境に関する技術力が、成果を上げるため には欠かせない資質である。
 
1-1●現場代理人に必要な技術力

 

技術力

品質

原価

工程

安全

自然環境

周辺環境

職場環境

 
(2)対応力
 Bさんは、技術力はあるのだが、対応力に欠けている。 ここでいう対応力とは、顧客、近隣、協力会社に対するコミュニケーション能力を言う。 工事をスムーズに進めるためには、コミュニケーション能力は欠かせない。対応力には、 相手とのコミュニケーションの段階ごとに、親密力、調査力、提案力、表現力、交渉力の 5つの能力が必要である(表1-2)。
 
1-2●対応力に必要な五つの段階

 

段階

必要な能力

状態

1段階

親密力

相手との親密性を高める力

2段階

調査力

相手の要望(ニーズ)や欲求(ウォンツ)を聞き出す力

3段階

提案力

相手の要望(ニーズ)や欲求(ウォンツ)に応じた提案書を作成する力

4段階

表現力

相手に対して提案書の内容を表現する力

5段階

交渉力

相手の決断を引き出す力

 
(3)管理力
 Cさんは、技術力や対応力を管理するための能力が不足している。 管理とは図1-1のマネジメントサイクルに示すP(プラン、計画)、D(ドゥ、実施)、 C(チェック、点検)、A(アクション、改善)を実行する力のことである。
             
1-1●マネジメントサイクル 
(4)知識、見識、胆識
 さらに、これらの技術力や対応力、管理力に関して、薄っぺらなものでは成果を 出すことはできない。それぞれに対して深みが必要だ。
  現場代理人には、技術力や対応力、管理力に対して、雑然とした情報「雑識」を 体系化する「知識」、それを実行、行動することで先読みして対策を打つことのでき る「見識」、そして変化に対応して決断する「胆識」が必要なのである。
  Aさんは「雑識」はあるのだが、それが「知識」となっていない。DさんやEさんは 経験が不足しており、「見識」が欠如している。Fさんには決断力、つまり「胆識」が 欠如している。
            
 1-2●雑識、知識、見識、胆識の関係
 
3.成果は「能力×熱意×考え方」に比例
 
 Gさんは、能力は高いのだが、それを生かすための熱意が不足している。
 熱意は保有能力を引き出す役割を有している。成果は、能力と熱意の積に 比例する。つまり、能力が10でも熱意が1であると10の成果しかつくり出せないが、 能力が5でも熱意が5であれば、25の成果をつくり出すことができる。
 能力が不足していても、熱意があればそれを大きく引き出すことができる。 逆に能力があっても熱意が不足していると、その能力を十分に引き出すことができない ために成果は出せない。

 

 Hさんは、基本的な考え方に問題がある。仁(他人への思いやりの心)、義(正しいことを行う心)、信(約束を守る心)に代表される人として正しい考え方を持っていない限り、周りの人たちの応援を得ることはできない。建設業の現場管理において作業員や職人、そして近隣の人たちなど周りの応援を得ることができなければ、仕事をスムーズに遂行することはできないのである。

 

 能力が10点満点、熱意が10点満点であるとすれば、考え方は+10点から-10点の範囲である。能力や熱意が低くても成果が少ないだけだが、考え方が誤っていると、成果とは反対の損害を発生させてしまう。

 

 ある建設会社の現場代理人は、朝は現場に誰よりも早く出勤し、事務所のトイレ掃除や現場の清掃を行う。さらには、乗用車や重機の洗車も行う。このようなことを繰り返していると、現場で働く人たちはその現場代理人に対して感謝の気持ちを持つだろう。そうすると、多少の無理を現場代理人に言われても承諾するものだ。

 

 ある自動販売機メーカーの営業マンの話である。この営業マンの仕事は、自動販売機の飲料を補充することだ。彼は毎朝、飲料を補充する際に、自動販売機の掃除をしていた。しかも、自分の会社の自動販売機だけでなく他社の自動販売機も掃除し、かつその周りをも掃除していた。

 

 その姿に感動した近くの商店街の人たちは、他社の飲料をその営業マンの会社の飲料に切り替えたという。まさに、「仁」の気持ちがあれば成果を上げることができる事例である。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今回のまとめとして、成果は次の式で表される。

 

 成果=能力×熱意×考え方

 

 先に述べたように、能力は10点満点、熱意は10点満点、考え方は+10点から-10点までなので成果は次のようになる。

 

 成果=10×10×(‐1010)=-10001000

 

1-3●成果を上げる現場代理人の3要素

 

能力

熱意

考え方

・技術力(品質、原価、工程、安全、環境)

・熱意が保有能力を引き出し、顕在化させる

・正しい考え方が、能力と熱意を正しい方向へと導く

・対応力(提案力、交渉力)

・管理力(PDCA

 

現場代理人育成についてはコチラ

②「基本は技術力と対応力」